納品前夜

LUTとは何か。動画の色が変わる仕組みと、2種類のLUTの正しい使い分け

LUTとは入力の色を出力の色に置き換える「対応表」です。Log映像が眠く見える理由、変換LUTとルックLUTの違い、当てる順番、二重掛けなどの失敗例まで、LUTを正しく使うための基本をまとめました。

目次
  1. 01 同じLUTなのに、クリップごとに結果が違う
  2. 02 LUTとは「色の対応表」のこと
  3. 03 映像制作でLUTが使われる理由
  4. 04 変換LUTとルックLUT、2種類を分けて考える
  5. 05 LUTのファイル形式と、当てる順番
  6. 06 ありがちな失敗と、その原因
  7. 07 LUTの入手方法と選ぶときの確認点
  8. 08 LUTだけで色は完成しない

同じLUTなのに、クリップごとに結果が違う

Logで撮った映像は、そのままだと白っぽくて眠く見えます。調べると「LUTを当てればいい」と出てきます。実際に当ててみると、たしかに一瞬で色が締まります。

ところが、別の日に撮ったクリップに同じLUTを当てると、今度は顔が赤黒く沈んだりします。配布されているLUTを手に入れたのに、見本の映像とはまるで違う色になった、という経験をした人も多いはずです。

LUTは魔法のフィルターではありません。中で何が起きているかを知らないまま使うと、うまくいくときと破綻するときの区別がつかず、当てては外すの繰り返しになります。逆に、正体さえつかめば、LUTの挙動はほとんど予測できるようになります。なぜなら、LUTがやっていることは一つしかないからです。

カラーグレーディング作業中のモニターと波形表示

LUTとは「色の対応表」のこと

LUTはLook Up Tableの頭文字で、直訳すると「参照表」です。日本の映像の現場では「ラット」と読む人が多く、「ルット」とも読まれます。

実体は、「入力がこの色なら、出力はこの色」という対応をひたすら並べた表です。映像の1ピクセルはRGB、つまり赤、緑、青の数値の組でできています。LUTはその数値の組を受け取り、表を引いて、別の数値の組に置き換えます。たとえば「入力が(R120, G140, B200)の青みがかった色なら、出力は(R105, G132, B214)にする」という指定が、膨大な行数で並んでいるイメージです。これを画面のすべてのピクセルに対して行うと、映像全体の色が変わります。LUTの仕事はこれだけです。

だからLUTは、映像の内容をいっさい見ていません。写っているのが顔なのか空なのかを判断せず、入力の数値が同じなら、出力の数値も必ず同じです。「肌だけ守って空を青くする」ような気の利いた処理は、表には書けません。

なお、動画アプリやカメラアプリの「フィルター」の中には、中身がまさにこのLUTであるものもあります。ワンタップで色の雰囲気が変わる仕組みの一部は、この表で動いています。

この単純さが、LUTの強みと限界の両方を決めています。単純だから、どのソフトで適用してもほぼ同じ結果になり、ひとつのファイルで映像全体の色を一度に変えられます。単純だから、素材ごとの事情は汲んでくれません。冒頭の「クリップごとに結果が違う」問題の種は、ここにあります。

映像制作でLUTが使われる理由

Log撮影の映像が眠く見える理由

LUTが映像制作に深く根を下ろした背景には、Log撮影があります。Logは、カメラのセンサーが捉えた広い明暗差を、限られた記録データに収めるための記録方式です。明るい部分と暗い部分の情報をできるだけ捨てずに残すよう、対数(logarithm)的なカーブで階調を圧縮して記録します。いわば、あとで編集するための「保存用の詰め方」です。

一方、映像を表示する側にも規格があります。広く使われているのがRec.709で、HD放送や一般的なSDR配信はこれを前提にしています。保存用に詰めたままの映像を、表示規格を前提に作られた画面へそのまま映せば、コントラストは浅く、彩度は薄く見えます。Log映像が眠いのは、壊れているからでも撮影に失敗したからでもなく、まだ表示用に開梱されていないからです。

霧がかった淡いコントラストの風景

「翻訳」を配る手段としてのLUT

LogからRec.709への変換は、カーブの設計が決まっているので、計算で一意に定まります。「この入力値はこの出力値になる」がすべて決まっているなら、それは表に書き出せます。つまりLUTです。カメラメーカーは自社のLog方式に対応した変換の表を配布し、使う側はそれをソフトに読み込むだけで、正しい翻訳を再現できます。LUTは、色変換の計算結果を受け渡すための共通のファイル形式として定着しました。

そして、表には翻訳以外のことも書けます。「全体を少し青く沈めて、肌は暖かく残す」という色の好みも、突き詰めれば入力と出力の対応です。こうしてLUTは、規格の翻訳と、絵作りの共有という、性格の違う二つの仕事を担うようになりました。この二つを区別しないことが、LUTにまつわる混乱のほとんどを生んでいます。

撮影現場のモニターでも動いている

LUTの出番は編集室だけではありません。Logで撮影している現場では、カメラやモニターに変換用のLUTを読み込み、記録はLogのまま、表示だけを仕上がりに近い色で確認する使い方が広く行われています。眠い映像を見ながら露出や照明を判断するのは難しいからです。「記録は保存用、表示は表示用」という分業をその場で成立させているのがLUTだと考えると、この道具の位置づけがはっきりします。

変換LUTとルックLUT、2種類を分けて考える

記録方式を翻訳する「変換LUT」

変換LUT(テクニカルLUTとも呼ばれます)は、LogからRec.709への変換のように、記録方式と表示規格のあいだを翻訳するLUTです。翻訳なので、正解があります。どのLUTを使うべきかは好みではなく、「どのカメラの、どの記録方式で撮ったか」で決まります。Logのカーブ設計はメーカーごとに違うため、変換LUTも方式ごとに別物です。自分のカメラのLog方式に合った変換LUTを使うこと。これが出発点です。

作品の雰囲気を作る「ルックLUT」

ルックLUT(クリエイティブLUTとも呼ばれます)は、フィルム調の柔らかい発色や、映画でよく見る青とオレンジの対比のような、作品の雰囲気を作るLUTです。こちらには正解がありません。どれを使うかは「どんな絵にしたいか」で選びます。

ただし、ルックLUTにも譲れない前提が一つあります。表は特定の入力を想定して書かれている、ということです。多くのルックLUTは、Rec.709相当の「普通の見た目」に整った映像を入力として想定して設計されています。一方で、特定のLog方式の映像を直接入れる前提で作られたものもあります。配布元が想定入力を明記しているなら、それがそのLUTの仕様です。

夜の街を照らす青とオレンジの対比的な光

混同すると何が起きるか

Rec.709想定のルックLUTを、Log素材に直接当てたとします。表の作者は「普通のコントラストと彩度の入力」を前提に出力を設計しているのに、実際に渡されるのは浅くて薄い入力です。入力が想定とずれれば、表が返す出力も設計とは別物になります。くすんだまま妙に色だけ転んだ映像は、たいていこれです。LUTの品質の問題ではなく、表に渡すものを間違えた結果です。

LUTのファイル形式と、当てる順番

事実上の共通形式は.cube

LUTはファイルとして配布されます。最も広く使われている形式は**.cube**です。実体はテキストファイルで、開くと数値の行がひたすら並んでいます。主要な編集ソフトやグレーディングソフトの多くが.cubeを読み込めるため、形式についてはまず.cubeだけ覚えれば困りません。

1D LUTと3D LUTの違い

LUTには構造の違いで2種類あります。1D LUTは、赤、緑、青の各チャンネルを独立に変換します。明るさやコントラストの調整は書けますが、「この色相をあちらへ寄せる」といった色同士の関係は書けません。3D LUTは、RGBの組み合わせ全体を別の組み合わせへ対応づけます。色相や彩度をまたぐ変換が書けるので、Logの変換もルックも、実務で流通しているのはほぼ3D LUTです。

なお、RGBの全組み合わせを表に書くとファイルが巨大になるため、3D LUTは格子状に間引いた代表点だけを持ち、あいだの色は補間で求めます。普段の作業でこの構造を意識する必要はありませんが、「LUTは有限の表である」という事実は、このあと出てくる白飛びの話につながります。

原則は「変換が先、ルックが後」

複数のLUTや色調整を組み合わせるときの原則は一つです。記録方式の翻訳、つまり変換をまず済ませ、雰囲気作りのルックはそのあとに置きます。

理由は、ルックLUTの前提そのものにあります。ルックLUTの多くは、普通の見た目に整った映像を入力として想定して作られています。だから、素材をまず普通の見た目まで持っていくのが先で、ルックはその上に重ねます。順番を逆にすれば、ルックの表には想定外の入力が渡り、出力は設計から外れます。

調整を重ねる順番の表現は、ソフトによって違います(ノードだったり、レイヤーだったり、エフェクトの並び順だったりします)。呼び名がどうであれ、自分の映像がどの順番で処理を通るのかを把握しておくことが、この原則を守る前提になります。

LUTより前に、素材そのものを整える

順番の話には、もう一段「LUTの前」があります。LUTは固定の表なので、入力のばらつきをまったく吸収しません。露出が半段明るいクリップと暗いクリップに同じLUTを通せば、出力も明るいままと暗いままです。ホワイトバランスも同じで、ずれたまま表を通れば、ずれた色が出てきます。

だから、ショットごとの露出とホワイトバランスの補正は、LUTより前の段階で行います。表に渡す入力を揃えてから、全クリップを同じ変換、同じルックに通す。この順序が守られていれば、LUTは全カットに同じ絵作りを一貫して与えてくれます。

編集デスクでカラーホイールを操作する手元

ありがちな失敗と、その原因

Log素材にルックLUTを直当てする

一番多いのは、Log素材へのルックLUTの直当てです。症状は、くすみ、濁り、不自然な色転びとして現れます。対処は単純で、先に変換を済ませるか、Log入力を想定したルックLUTを選ぶかのどちらかです。当てたルックが効かないと感じたときに疑うべきは、LUTの品質より先に、自分が表に渡している入力のほうです。

変換の二重掛け

次に多いのが、翻訳を二重に行ってしまう失敗です。最近の編集ソフトには、素材の記録方式を認識して表示用の変換を自動で行う、色管理の仕組みを持つものがあります。その環境でさらに変換LUTを手動で当てると、翻訳が二回行われ、コントラストは過剰になり、肌の明るい部分が飽和します。カメラ側でLogではなく仕上がった絵作りのまま記録した素材に、変換LUTを当てるのも同じ型の失敗です。翻訳は一回だけ。自分の編集環境で変換がどこで行われているのかを一度整理しておくと、二重掛けは防げます。

強さを調整しない、白飛びの復活を期待する

ルックLUTは、当てたら終わりの完成品ではありません。多くのソフトでは適用の強さを調整でき、100%では濃すぎるルックも、効きを抑えれば素材になじむことがよくあります。見本どおりの濃さが自分の映像に合うとは限らないので、強さは仕上げの調整項目として残しておくものです。

また、LUTに階調の復元を期待することはできません。白飛びした部分は、記録の段階で情報が失われています。LUTは手元の値を別の値に置き換えるだけで、失われた階調を作り出すことはできません。表にないものは、表からは出てきません。

LUTの入手方法と選ぶときの確認点

変換LUTは、カメラメーカーが自社のLog方式向けに公式配布しているものを使うのが基本です。多くの場合、無料で入手できます。自分のカメラの記録方式に対応した公式の変換LUTを探すところから始めるのが確実です。

ルックLUTは、無料の配布物から有料の製品まで大量に出回っています。選ぶときに見るべきは、見本映像の派手さや値段ではなく、想定入力です。そのLUTはRec.709想定なのか、それとも特定のLog方式の映像を直接入れる想定なのか。見本と同じ結果が出るかどうかは、見本と同じ状態の入力を渡せるかどうかで決まります。

そして、始めるだけなら無料のもので十分です。高価なLUTを買っても、渡す入力が整っていなければ結果は変わりません。

もう一つ、入手先は配布物だけではありません。グレーディングのできるソフトの多くは、自分で作った色調整をLUTファイルとして書き出せます。気に入った色ができたら書き出しておき、別の案件で読み込んだり、撮影現場のモニター用に渡したりできます。LUTは買うだけのものではなく、作って配れるものでもあります。

LUTだけで色は完成しない

冒頭の疑問に戻ります。同じLUTなのにクリップごとに結果が違ったのは、LUTが気まぐれだからではありません。LUTはただの対応表で、どのクリップにも同じ表を律儀に引いていただけです。違っていたのは入力、つまりクリップごとの露出やホワイトバランスのほうでした。

だから、実務のカラーグレーディングは次の順序で進みます。まず各クリップの露出とホワイトバランスを補正して、素材を揃える。次に変換LUTなどで表示用の見た目へ翻訳する。その上でルックを重ね、最後にカットごとの微調整を行う。LUTが受け持つのはこの流れの中の「翻訳」と「ルックの土台」であって、色作りの全工程ではありません。

複数のクリップの色を見比べながら調整する編集画面

LUTは、色作りの出発点を一気に引き上げてくれる道具です。そして対応表という正体を知ったいまなら、破綻したときにどこを疑えばいいかも読めるはずです。表に何を渡しているか。翻訳は一回で済んでいるか。この二つを押さえてLUTを使い込んでいくと、やがて「配られた表を使う側」から「自分の色を表にする側」へ進む道が見えてきます。そこから先が、カラーグレーディングの本番です。